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2017年9月 9日 (土)

今日の一冊(79)『がん光免疫療法の登場』

がん光免疫療法の解説本が出ました。がん光免疫療法は、以前のブログ「光免疫療法(近赤外線免疫療法)の動画」でも触れていまが、今後のがん治療に大きな期待の持てる技術です。

毎日新聞社の医療記事に多く関わってきた永山悦子氏に、開発者の小林久隆氏が協力して上梓したものです。

がん光免疫療法の登場──手術や抗がん剤、放射線ではない画期的治療

光免疫療法は、米国国立衛生研究所(NIH)の主任研究員である小林久隆らの研究グループが、ネイチャー・メディシン誌上にて、その開発を発表したものです。

以前の記事では「がん細胞だけに特異的に結合する抗体というものは存在しない」ので、効果は疑問です、と書いたのですが、この解説本を読むと私の早とちりだったかもしれません。

小林さんが最初に開発したのは、抗体ががん細胞にくっついたことを「眼で見て」確認できる技術でした。がん細胞にだけくっついた抗体が光るようにしたのです。

IR700という、新幹線の塗料にも使われている物質にハーセプチンなどの分子標的薬を抗体として乗せ、近赤外線を当てるとがん細胞が破裂することを確認したのです。

その機序は次のとおりでした。

  1. IR700に硫酸基をくっつけて水溶性に変える
  2. 分子標的薬を抗体としてこれに乗せて注射で体内に届ける
  3. この抗体にくっつく抗原は正常細胞にもあるが、正常細胞は1万程度の抗原を持ち、がん細胞は数万~数百万の抗原を掲示している
  4. 700ナノメートルの近赤外線を当てると、硫酸基のケイ素が切れてIR700は一瞬で水に溶けない不溶性となる
  5. その結果抗原や抗体が変形して細胞膜に無理な力がかかり、たくさんの穴が開く
  6. 細胞膜に約1万の穴が開けば細胞が破壊されることが分かった
  7. 正常細胞も同様の変形を起こすが、抗体-抗原の数が少なく、1万に届かないので、穴が開くまでには到らない
  8. これは抗がん剤のような化学作用を利用するものではなく、「物理化学的」な破壊方法といえ、「ナノ・ダイナマイト」と名づけられた
  9. がん細胞は「免疫原性細胞死(免疫を誘導する細胞死)」と呼ばれる死に方であり、がん細胞が破裂すると、近くの樹状細胞に「がん細胞が死んだ」というシグナルが届き、樹状細胞が活性化してT細胞にがん細胞を攻撃するように指令を出す
  10. IR700に制御性T細胞の表面にあるCD25高原とくっつく抗体を載せて実験をしたら、がん細胞が免疫から逃れる守り神である制御性T細胞が2割まで減少し、NK細胞の9割が目ざめて活発になった
  11. これらの免疫細胞の働きによって、原発がんだけではなく、遠隔転移したがんも消失することが確認できた
  12. つまり、利口ながん細胞が免疫抑制によって自己を防御していても、それを無視して免疫反応が活発に働き出す

こうした機序らしいです。非常によく考えられた開発戦略ですね。本来の免疫の力を復活させるという点で、免疫チェックポイント阻害剤のオプジーボと似ていますが、オプジーボは全身の免疫力が高まるので自己免疫反応が避けられませんが、光免疫療法では、T細胞やNK細胞は、制御性T細胞が「門番役」として守っていたがん細胞だけを攻撃するので、自己免疫反応は起きないと確認されています。

マウス実験では、肺がんと結腸がんを持つマウスの肺がんだけの制御性T細胞を破壊したところ、結腸がんは残ったままでした。

アメリカでは頭頸部がんに対して安全性を確認する第一相試験が終わり、7人の患者のうち4人のがんが消失した。現在、各種のがんに対する第2相試験が進行中である。

日本では楽天が、この治療法の特許を持つアスピリアン社と合弁会社を設立して治験を進めると発表されています。楽天の会長三木谷さんは、父親を進行した膵臓がんで亡くしているのですね。

小林さんは「日本で治療として実現するのは3年~4年後でしょうか」と述べています。がん治療の選択肢が広がることを期待しています。


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