がん一般

2018年1月13日 (土)

エピジェネティクスでがんの自然退縮を説明する


7afa69941335efde0fb53bb565fe75d9__2

前回の記事の続きです。

がんの自然退縮とエピジェネティクス

エピジェネティクスについて、「がん情報サービス」の「細胞ががん化する仕組み」では次のように説明されています。

6.遺伝子のエピジェネティックな変異

遺伝子の傷は、その突然変異によるものばかりであると思われてきました。しかし、遺伝子突然変異以外にも、細胞が分裂しても薄まることなく、新しくできた細胞に伝達される異常があることがわかってきました。それがエピジェネティックな変異で、具体的には、「DNAメチル化」と「ヒストン修飾」の変化です。特に、DNAメチル化の変化はヒトがんの多くで認められ、多段階発がんのステップとして関与している場合もあることが知られています。

がんは遺伝子の病気と言われますが、遺伝子自身では、自分がいつ働くのかを決めることはできません。その遺伝子が発現するかしないかは、周囲の環境によって決められているのです。

より詳しくは過去の記事『がんとエピジェネティクス(2):エピジェネティクスとは?』に書いてあります。

小児の神経芽細胞腫は自然退縮の多い癌腫ですが、それにはエピジェネティクスが関わっているとの仮説があります。

「まずあるがん抑制遺伝子で変異が入り、次いで“別の”遺伝子にエピジェネティクス変化が起こり、これによって自然退縮が生じたり退縮が阻止されたりする」という考え方があります。

原発事故とエピジェネティクス

2013年の記事『がんとエピジェネティクス(3)放射線の影響』で次のように書いた。

>チェルノブイリ原発事故による影響は、子どもの甲状腺がんだけであるとして、それ以外の心臓血管系の疾病を含めた、他の病気による県境への影響は無視してきた。ベラルーシで被曝者の間に起きているたくさんの身体の異常、不健康な子どもが圧倒的に多いという事実も「疫学的に証明されていない」として、原発事故の影響ではないとしてきた。たぶんフクシマでも同じことが起きるだろう。そして「疫学」のもとに無視されるに違いない

まさに予想が的中して、多発している子どもの甲状腺がんは「放射線の影響とは考えがたい」とされつつある。

重イオンマイクロビーム放射線によって数個の細胞にだけ放射線を照射しても、その周囲の細胞が影響を受けることが発見されている。これがバイスタンダー効果です。ゲノム不安定性も含めてエピジェネティックな現象とされている。

放射線によるエピジェネティックな影響については、綿貫礼子氏が先駆的に指摘している。『放射能汚染が未来世代に及ぼすもの: 「科学」を問い、脱原発の思想を紡ぐ 』で、

一方、放射線はゲノム不安定性やバイスタンダー効果などを通して、DNAメチル化などエピジェネティックなパラメーターを変化させ、遺伝子の発現を変化させている。バイスタンダー効果は、細胞レベルだけでなく、組織、器官、そして生物個体でも現れることが示されている。頭部へ局所的にX線を照射したマウスでは、総体的なDNAメチル化レベルが減少することが明らかになっている。また、照射された頭部から離れた脾臓内で、メチル化パターン変調の鍵となるタンパクのレベルを変化させることが示されている。

と述べています。

千葉の放射線医学総合研究所も、IAEAと連携して低線量放射線の影響を研究するとして、重要な研究課題のひとつに「エピジェネティック効果 (バイスタンダー効果やゲノム不安定性)」を掲げている。

放医研の今岡達彦氏を研究代表者とする研究発表論文「放射線発がんにおける非遺伝子変異的プロセスの解明」には次のように書かれています。

組織微小環境がDNAメチル化状態の変動を伴うエピジェネティックな機構によって腫瘍形成を抑制することを示す証拠を得たことは、個体レベルで放射線のエピジェネティックな影響を探索する上での貴重な実験モデルを提供するものであり、将来の研究の発展に直結する。実際、本事業の結果を受け、別の系統で同様の 実験を実施したところ、移植部位に同様の非腫瘍化が見られたほか、放射線照射した個体の組織微小環境からは触知可能な腫瘍が形成されやすいという途中結果が得られている。

このように、がん研究においてはエピジェネティクスが重要な研究課題となっているのです。

がんの組織由来説で自然退縮を説明する

カリフォルニア大学バークレー校のミナ・ビッセルのトークですが、興味深いことを述べています。

ミナ・ビッセルのTEDトーク「癌の新しい理解につながる実験」(翻訳付き) 

20180113003

彼女たちのグループは、普通の乳房細胞の基本的性質を模した人工の乳房組織を構築した。そこに悪性の乳がん細胞を導入して経過を観察した。驚いたことに、がん細胞が正常化したのである。完全に分化した普通の組織によってがんが正常化することを明らかにしたこの実験の意義は大きい。

彼女をはじめとする「組織由来説(エピジェネティクス説)」の支持者は、細胞どうしの正常な相互作用が破綻した結果、がんが引き起こされると考える。「組織由来説」は、第一に非メチル化などのがんの初期に起きるエピジェネティックな変化のメカニズムをうまく説明できる。第二に、がんの進行中に起きるジェネティックな変化とエピジェネティックな変化を理解する枠組みを提供する。また、組織由来説は、がんの成長過程の大部分が、正常な細胞の機能によって支えられていることに注目する。

がん細胞と正常細胞の相互作用は、がんの進行に拍車をかけることもあれば、その進行を止めて自然退縮に導くこともある。

がんの自然退縮は、体細胞突然変異説(SMT:従来の多段階発がん説)では”奇跡”のように見えるが、組織由来説からみれば、がん細胞の正常なふるまいの範囲なのである。この自動修正は、幹細胞でも、完全に分化した細胞でも起きる。

がん細胞の周辺の微小環境に注目する組織由来説では、細胞間の相互作用が破綻すると、それによって細胞の内部環境が変化し、非メチル化などのエピジェネティックな変化が起きてがんが発生すると主張する。発がん物質は細胞の相互作用を破綻させ、その結果がんが引き起こされる。

がんの進行の第一段階はエピジェネティックな変化であり、それは逆行させることもできる。相当進んだがんでも、適切な条件を整えれば、エピジェネティックに逆行させることが可能である。微小環境論では、その適切な条件とは、免疫反応と、周囲の健康な細胞との相互作用であるとする。

従来のがん遺伝子とがん抑制遺伝子に焦点を当てた”仮説”=「体幹細胞突然変異説」では、がん細胞の免疫系に対する反応までは説明し切れない。「自然緩解」に対しても説明することができず、何が起きているのか分からないから「例外的症例」として生存率曲線のデータからこっそりと削除するだけである。

がんを取り巻く微小環境に、適切な影響を与え、エピジェネティックに逆転させられるならば、末期のがん患者でさえも希望を持てるようになる。そうした研究も進んでいます。 

がん患者にとって自然退縮・自然治癒は最後の希望ですが、ごくまれにしか起こりません。しかし、起こらないわけではない。

自然退縮を理解するためには、ドーキンスの『利己的遺伝子』に代表される「生命は遺伝子によって支配されている」というセントラル・ドグマを否定することから始めるべきだろう。

続きを読む "エピジェネティクスでがんの自然退縮を説明する" »

がんの自然退縮ってどれくらいあるの?

Photo

自然退縮は結構ある

治らないがんを宿した患者なら、誰しも「自分のがんだけは奇跡的に治って欲しい」と願うものです。そして、がんの「自然治癒」「自然寛解」「自然退縮」という現象が少なからずあるのですから、「運が良ければ自分も」と思うのも当然です。

一時の現象ですが、ムラキテルミ氏が肝臓がんで余命3ヵ月を宣告され、石原メソッドや茹で小豆で完治したと話題になりました。これなども稀な自然寛解の例であって、石原メソッドが効いたのかどうかは疑問です。なぜなら、彼女に続く寛解例が出ていないようなのです(私が知らないだけかもしれませんが)。ムラキテルミ氏はその後、一日一食断食療法あや春ウコンまで自身のWebサイトで販売しているようです。

多くの医師がこうした自然寛解例を見ていると言います。Google Scholarで「がん 自然退縮」で検索すると、207件という結構な数の論文が出てきます。確かにがんの自然退縮例は思った以上に存在するのです。

20180113001

膵癌でも検索すると、数は少ないですが、自然退縮例は確かに存在します。

自然退縮はどのくらいの頻度で起きるのか

大場大医師は、その著書『東大病院を辞めたから言えるがんの話』の中で、

最近、日本語論文でも、がんの「自然退縮」についてまとめられた良質なものが報告されています。(Jpn J Cancer Chemother 2013;40:1475-1487)それによると、2011年の一年間に日本だけで63例が報告されているとのことです。

また、詳細なデータを検討した結果、がん患者約1.2万人に1人の割合で「自然退縮」が発生しているとのことです。

と書いています。森山紀之医師(東京ミッドタウンクリニック健診センター長)は、

医学的には「自然退縮」と呼び、6万~10万人に1人の確率で起こるといわれています。

と説明しています。

腫瘍内科医の勝俣範之氏も、がんの自然退縮について、

がんの自然退縮は確かにあるようで、これまで世界中で500例以上、年間20人ほどの報告があります。進行がんでも報告がありますし、ほとんどの癌腫で報告されています。
原因はまだ明らかになっていませんが、自然に遺伝子異常が修復されたからではないかという説があります。 (P35)

と書かれています。

また、日本の心身医学の創始者である九州大学の故池見酉次郎教授は、中川俊二博士とともにがんの自然退縮例を研究しました。この研究により池見教授はストレス学説で有名なハンス・セリエ博士のセリエ賞をとられたのですが、がんの自然退縮は500から1000例に1例はあると考えられると述べています。

このように、500人から10万人に1例と幅が大きいのですが、これは自然退縮を真剣に研究してはいないことの証しでしょう。

どうすれば自然退縮が起きるのか

正直、これは分かっていません。しかし、どうやら精神面も含めた生き方の見直しが自己治癒力を高め、その結果として、なかには自然退縮が起きる患者がいるということのようです。

池見酉次郎教授や中川俊二氏らは、

74人のがんの自然退縮がみられた患者さんで、精神生活や生活環境を詳しく分析できた31人をまとめています。31人中23人(74パーセント)に人生観や生き方の大きな変化があったとされています。その23人の中7人はかねてから人間的な成長度の高い人や真に宗教的な生き方をしてきた人たちであり、がんの告知がきっかけになり、永遠の命へのめざめが起きたそうです。5人は信仰をもっていた人たちで、がんを宣告されることによって信仰の対象としていた教祖や神仏に自分のすべてをまかせきるという全託の心境になったとされています。5人は家族からのサポートや周囲の人の温かい思いやりに包まれて主体的な生きがいのある生活へ転換が起きた人であり、6人は生きがいのある仕事に打ち込んでいった人だそうです。このように、約4分の3の人では、生きがいや生き方に大きな変化があったときに、がんの自然退縮があったというのです。

と報告し、これらの人たちを「実存的転換や宗教的目覚めがあった人」と分類しています。

「実存的転換」の意味は、中川俊二氏の言葉を借りると、『今までの生活を心機一転し、新しい対象を発見し、満足感を見出し、生活を是正するとともに残された生涯の一日一日を前向きに行動しようとするあり方』と説明されています。

私も同様に、長期生存している患者はの特徴は、

 ●たとえ余命3ヵ月と言われようとも、うろたえていない
 ●平然と死を直視している
 ●自分のことよりも、他人のことを考え心配している
 ●自然や美しいものに関心を示し反応している

ではないかと感じています。

続きを読む "がんの自然退縮ってどれくらいあるの?" »

2018年1月12日 (金)

お金が無くても保険証が無くても病院を受診する方法!


Photo

医療費・生活費等の助成制度

『がん情報サービス』には「生活費等の助成や給付など」のページがあり、病気などで働けなくなったときに、生活を支えてくれる制度を紹介しています。

しかしその対象は、被用者保険(健康保険、共済、船員保険)に加入している方であり、無保険者を想定した内容ではありません。

非正規雇用が増加し、具合が悪くてもお金がない、保険料を払えないので保険証がなくて病院に行かれないという方が増えています。失業中、ホームレス、住民票の登録をしていない等の場合も同様です。そんなときでも治療を諦めることはありません。

健康保険証がないから医療費は自己負担となり、全額を自費で賄わなくてはならないーーと思い込んではいませんか?

無料低額診療事業

そのような国民のために、社会福祉法では救済措置を用意しています。

社会福祉法第2条3項の九『生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業』です。

社会福祉法第2条3項の九では『生計困難者のために、無料又は低額な料金で診療を行う事業』を第二種社会福祉事業として位置付けています。

それが、いわゆる『無料低額診療事業』です。その事業に登録された病院(無料低額診療施設)なら、このような方でも医療費の心配をせずに受診することができます。この届出をした病院は、無料又は低額での医療行為を一定数行うことと引き換えに、税制上の優遇措置を受けることができるのです。

長年この事業に積極的に取り組んできたのは、民医連の加盟医療施設、済生会関連の病院です。近くに民医連の病院や済生会〇〇病院などの名称の病院があれば、まずはそこに問い合わせてみましょう。

各都道府県の福祉関連部局には無料低額診療施設の一覧が載っている場合があります。東京都なら、東京都福祉保健局のホームページに一覧が掲載されています。大阪府も同様です。

その他の道府県は、福祉関連部局あるいは、Google検索で「〇〇県 無料低額診療施設」とキーワードを入れて検索してみてください。分からない場合は県庁に電話しましょう。また、歯科医院で登録している施設もあるので、歯の治療でも利用することができます。

どのように利用するのか

各施設で手続きが異なる場合があります。東京都の例では、

【対象者】
低所得者、要保護者、ホームレス、DV被害者、人身取引被害者等の生計困難者 (医療保険加入の有無、国籍は問いません)

【利用方法】
無料低額診療事業
(1)医療機関所在地の福祉事務所に相談
(2)医療機関所在地の社会福祉協議会に相談
(3)当該医療機関に直接相談 

無料低額介護老人保健施設
  当該介護老人保健施設に直接相談

【減免の基準】
施設ごとに規定しているので、直接お問い合わせください。

【減免の範囲】  医療費(保険診療の範囲内)、日用品費等(施設ごとに規定しています)

となっています。

医療機関に直接相談する場合は、各無料低額診療施設の受付で、医療相談室の医療ソーシャルワーカー、あるいは医療相談員に繋いでいただき、事情を話してください。あるいは近くの民生委員に相談するのも方法です。

病気は「早期発見・早期治療」が大切です。それが結局は国全体の医療費を削減することにもつながります。発見が遅いと治療も長引きます。その間の社会的損失も大きくなります。そうしたことを考慮しての制度ですから、遠慮なく利用してください。

下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』の著者、藤田孝典さんがこんなツイートを呟いています。

続きを読む "お金が無くても保険証が無くても病院を受診する方法!" »

2018年1月10日 (水)

血糖値が高いと、充分ながん治療が受けられない


Inslin1_2

がん患者は糖尿病を併発している

東京築地の国立がん研究センター中央病院でも、糖尿病を合併する患者は多いようで、入院病床600のうち、約60人は糖尿病を合併しているそうです。

糖尿病を合併する患者の3分の2は内科系の診療科を受診しており、その3分の2は膵臓がん。つまり、約2分の1が膵臓がんです。

さらに困るのは、抗がん剤には高血糖を招くものが多いことです。

20151222_19_45_12

とりわけ注意を要するのは分子標的治療薬です。このタイプの薬剤は細胞増殖のシグナル伝達を阻害するものが多く、インスリン本来の働きと拮抗してしまう。

血糖値が高いと患者は不利益を被る

ある患者は、FOLFIRINOXによる治療を受けていたところ、全身状態が急激に悪化してきた。体重も減少し、全身倦怠感も強く、治療の中止が検討された。しばらく測定していなかったHbA1cを測定したところ、12%を超えていたという。

FOLFIRINOXの投与前には血糖値やHbA1cの測定は必ずやってもらおう。

薬物療法を受けているがん患者は体調不良が半ば常態化しているので、我慢して不調に耐える傾向がある。脱水、高血糖さらに脱水という悪循環が進行して、ときには昏睡状態になるほど高血糖を招くことがある。

上のFOLFIRINOX患者の例のように、糖尿病を併発していると、本来受けられる治療を受けられない不利益を被っているかもしれません。血糖値管理がなされていない患者は手術後の創部感染が起こりやすく、縫合不全のリスクも高まる。

膵臓がんでは、手術ができるかどうかが長く生きられるかどうかの分かれ目だが、手術の可否を最終的に決定するのは麻酔科医である。安全に麻酔をかけられる血糖値にならないと、麻酔医からOKは出ず、手術をすることはできません。血糖値をシビアに評価された結果、麻酔科から差し戻されるケースもあるのです。

抗がん剤の副作用を抑える制吐薬によく使われるステロイドは肝臓で糖新生を促進し、筋肉組織で糖利用を阻害するなど、インスリンと正反対の作用があり、高血糖を起こしやすい。これがさらに悪循環を招くことになる。

がん細胞が分泌産生する腫瘍壊死因子(TNF)αなどの炎症性サイトカインがインスリン抵抗性を惹起することも知られている。

血糖値管理は膵癌患者の予後を左右する

以上、見てきたようにがんと糖尿病(血糖値)には密接な関係がある。

抗がん剤は高血糖を招きやすいし、さらに膵臓がん患者は高血糖になりやすい。抗がん剤治療中、特にFOLFIRINOXを投与中の患者は、血糖値の管理にも十分注意を払うべきです。

がんの患者さんにとっても、手術前後、抗がん剤治療中の血糖コントロールは重要です。十分な治療を受けるためにも、薬物療法だけではなく、糖質制限食などによって血糖値は自己管理するようにしましょう。

続きを読む "血糖値が高いと、充分ながん治療が受けられない" »

丸山ワクチンは今・・・ 効くのか効かないのか


Photo1_2

丸山ワクチンって?

「丸山ワクチン」については、最近のがん患者ではご存じない方も多いようですが、一時はブームになりました。

丸山ワクチンは、日本医科大学皮膚科教授だった丸山千里博士が開発したがん免疫療法剤です。今免疫療法が話題ですが、丸山ワクチンも一種の免疫療法剤です。1944年、丸山博士によって皮膚結核の治療のために開発され、その後、肺結核、ハンセン病の治療にも用いられた。
1976年11月に、ゼリア新薬工業から厚生省に「抗悪性腫瘍剤」としての承認申請を行うが、1981年8月に厚生省が不承認とした。ただし、「引き続き研究継続をする」とし、異例の有償治験薬として患者に供給することを認め、現在に至る。
支持者たちは末期のがん患者に効果があると主張しているが、薬効の証明の目処は立っていない。

この最後の部分は、現在では少し違います。子宮頸がんでの臨床試験が新たに進んでいるのです。

テレビで丸山ワクチンの特集が放送されると、日本医科大病院の電話が一晩中鳴りっぱなしになるほどの反響でした。ワクチンの希望者は1日700人以上にも達し、病院の廊下が患者やその家族で埋まったのです。

私も当時の過熱ぶりをうっすらと記憶しています。

丸山ワクチンを巡る経過

同時期に承認されたクレスチン、ピシバニールに比べて、丸山ワクチンの承認過程が「不公平」だとの批判もあります。詳細はWikipediaの「丸山ワクチン」の項に譲るとして、クレスチンはこの3月で製造中止になります。

丸山ワクチンと同時期にスピード申請されたこの二つの新薬は、8年後には効果が見直されて、単独使用での有効性は否定されたのです。

薬として承認はしないが、「有償治験薬」としては認める。なんともおかしげな行政の対応に、製薬企業と調査会の委員との間に、何らかの金銭関係はなかったのかとの疑念を持ちます。現在でも臨床試験に関する数数の疑惑が報道されていますが、当時はさらに癒着する温床があったのかもしれません。

第094回国会社会労働委員会において、村山達雄厚生大臣は丸山ワクチンに縮小効果が見られなかったので延命効果判定を導入したと答弁しています。

現在抗がん剤は延命効果が亡ければ承認されませんが、当時は腫瘍縮小効果だけでも承認されたのでした。丸山ワクチンが、延命効果で薬効を決めるきっかけを作ったとも言えます。

見直される丸山ワクチン

昨日9日に放映された、日本テレビ「ザ!世界仰天ニュース 国が認めない丸山ワクチンの謎」では、丸山ワクチンの歴史が要領よくまとめられていました。

 

  • 回復の見込みはないと宣告された急性リンパ性白血病の少年が丸山ワクチンで1年後には退院するまでに回復した
  • 山形の加納医師による5年にわたる丸山ワクチン単独投与の臨床データがまとめられ、根治困難とされる進行癌5年以上の患者生存率が47.4%という結果が出た。
  • 末期ガン患者の32例で抗ガン剤のみの治療の1年生存率が1.5%、 2年生存率はゼロだったのに対し、丸山ワクチンを併用した方は1年生存率が28.1%、 2年生存率は9.4%と明確な差が出た。
  • 東北大学の比較臨床結果では、ガンを小さくしたりする制ガン効果は否定したが、 やはり延命効果は認めるものだった。

今でも健康保険で使える丸山ワクチン

アンサー20という薬剤がありますが、これは丸山ワクチンを10倍に濃縮した薬剤です。健康保険では、「放射線治療時の白血球の減少」に対してだけ、その使用が認められています。陽子線治療施設で使われている例もあるようです。もちろん健康保険が適用できます。1アンプルの薬価が3000円ほどですから、患者負担は1000円ほどです。全額自費で賄ったとしても週1回なら月に12000円ほどですね。

放射線治療を行っている患者は、主治医に相談してもよろしいでしょう。

丸山ワクチンの新しい臨床試験

1992年、子宮頚がんIII期の患者を対象に調べたところ、丸山ワクチンの濃度を40µgの最大にした注射液が、腫瘍縮小率に優れていた。そこで40µg液を使った場合の患者の生存率を二重盲検法で調べることになり、濃度を極めて薄くした丸山ワクチンB液(濃度0.2µg)を使った。その結果は、5年生存率において、丸山ワクチン40µg液は41.5%でプラセボ代わりの0.2µg液(B液)を使った患者は58.2%。その差が逆転した。

次におこなった250人程度を対象としたB液での臨床試験を実施した。放射線療法+丸山ワクチンB液と、放射線療法+プラセボの二重盲検試験である。これで5年生存率を調べたところ、前者が75.7%、後者が65.8%という数字が出た。

ただし、臨床試験の期間において医療機関に放射線化学療法が導入されて患者の予後が予想以上に良くなったこと、病期II期の患者数が想定していたよりも多かったことなどから、統計学的には有意差を認めるに至らなかった。対象者のなかのⅢ期の患者だけの分析では有意だったが、数が少なく、信頼性がないとされた。

この試験に関わった埼玉医科大学の藤原恵一医師らは、2013年6月のASCO(米国臨床腫瘍学会)においてこれらの試験データを公表し、もう一度この結果を検証するため現在臨床試験を行っている。

その臨床試験のデータはこちらに登録されています。
Randomized Study of Z-100 Plus Radiation Therapy to Treat Cervical Cancer

「Z-100」が低濃度の丸山ワクチンの一般名称です。ステージⅢBの子宮頸がんにおけるアジア共同治験で、ランダム化二重盲検プラセボ対照比較試験が第3相試験までいっています。その結果次第では丸山ワクチンの見直しがされるかもしれません。

不幸な経過を辿った丸山ワクチンですが、ここに来て見直しの機運があるようです。

丸山ワクチンはどこで受けられるのか

「有償試験薬」という性格上、日本医科大学付属病院ワクチン療法研究施設でワクチンを購入し、地元の医院で投与してもらう流れになります。

詳しくは「丸山ワクチン・オフィシャルサイト」に記載されています。

<以下オフィシャルサイトより抜粋>

●丸山ワクチンの治療を受けるまでの流れ
(1)治験を医師に依頼する
(2)必要書類の用意
(3)ワクチン療法研究施設へ


(1)治験を医師に依頼する
第一に、丸山ワクチンによる「治験」を引き受けていただけるよう、医師にご相談ください。その医師が治験担当医師となります。患者さんの病状を最もよく把握している主治医にお願いするのがよいでしょう。
ただし、週3回注射に通わなければなりませんので、ご近所にかかりつけの医師(ホームドクター)がいればその医師に相談する方が便利な場合もあります。診療施設の指定はありませんので、主治医のほかに週3回の通院が可能な病院・診療所でご相談ください。

(2)必要書類の用意
治験担当医師が決まりましたら、治験承諾書(丸山ワクチンによる治験を 引き受けるという治験担当医師の承諾書)とSSM治験登録書(現在までの治療経過をまとめた書類)への記入をお願いしてください。これらの書類は当研究施設に用意してあります。下記の「関係書類一覧」からダウンロードできますので、ご利用ください。

お急ぎのときは、とりあえず、書式は問いませんので、担当医師に「紹介状の形式で『丸山ワクチンの治験を引き受けること』と現在までの治療経過(概略でも可)とを書いてください」とご依頼ください。その書類で代用できます。
この場合は、再診時に当方所定の書類をご提出(郵送可)いただきます。
関連書類一覧→

(3)ワクチン療法研究施設へ
必要書類が入手できましたら、初回は、治験担当医師に代わってご家族か身内の方にワクチン療法研究施設へ来院していただきます(予約の必要はありません)。
診療はありませんので、患者さんご本人がいらっしゃる必要はありません。

続きを読む "丸山ワクチンは今・・・ 効くのか効かないのか" »

2017年12月31日 (日)

緩和ケア「想定外のことばかり」


Photo

今年も沢山ご訪問くださり、ありがとうございました。来年は膵臓がんに、免疫チェックポイント阻害薬「キイトルーダ」が使えるようになり、光免疫療法の治験が始まる、そのような初夢を見たいと思います。

緩和ケアの探し方

昨年の記事ですが、『緩和ケアの冊子-ホスピスの探し方など

20171231001

で、緩和ケアの冊子を紹介しました。

想定外のことばかり

冊子を作成された前田典子さんが2017年9月17日に亡くなられました。

緩和ケアの情報を集めて冊子まで作られた前田さんですから、ホスピスへの入所も用意万端、終末期医療を存分に受けられたのだろうと思いきや、「想定外のことばかり」だと言います。

毎日新聞 医療プレミア「がん・ステージ4からの眺め 緩和ケア情報、後に続く人へ

前田さんは、取材のためにシミュレーションをし、すでに最期を過ごす病院を決めていた。しかし、ここに入院するまでの道のりは遠かった。「現実は、想定外のことばかりでした」

まず脳転移の放射線治療後、ここまで急激に体調が悪くなるとは思わなかった。食欲がなくなり、退院して約1カ月後、1週間で体重が7キロ落ちた。ちょうど遺言書を書き終えた頃だった。ベッドでぐったりした前田さんを友人が見つけたが、「あのまま死んでいてもおかしくなかった」。

その後、要介護2の認定を得て訪問介護を受けたが、1人暮らしでは無理がある。決めていた最期を過ごす病院への入院には、主治医の明確な指示が必要だ。主治医とは信頼関係で結ばれていたが、「病状を少し軽く見ていたようだ」(池谷さん)と、すぐに入院できなかった。

また緩和ケア病棟に入るには「親族を伴った面談」が必要となる。前田さんには幸い、都内においがいたが、近くに親族がいない人も多いはずだ。「友人では力になれない。緩和ケアについてあれほど調べたのに、考えが甘かった」と池谷さんは肩を落とす。

結局、準備していたにもかかわらず、前田さんが緩和ケア病棟に移れたのは、急激な体調悪化から1カ月以上後だった。「こんなにハードルがあるとは思わなかった。これからは、緩和ケア医が主治医と対等な立場になり、患者をスムーズに誘導してほしい」。前田さんは、後に続く患者のためにかすれる声を絞り出す。

「想定外」を想定して、入念な足を使った調査と、シミュレーションが必要ですね。そして、いつまで抗がん剤を続けるのか、止め時を決めておくことが大事です。でないと、いつまでも希望に執着し、緩和ケアへのスムーズな移行ができなくなります。

  • 患者が希望すれば、当然、緩和ケアの専門家に紹介してくれるものだと思っていました。でも、それがうまくいっていない。
  • 患者が受けたいと言っても、「緩和ケアはまだいいよ」と主治医が言ったら、それでおしまいです。緩和ケア科は、紹介状がないと予約も取れないところが多い。
  • 精神面なども含めた全人的ケアは理想ですが、今の日本ではそのようなケアを期待できる施設は、あまりありません。

「がん情報サービス」でも「緩和ケアは、がんが進行してからだけではなく、がんと診断されたときから必要に応じて行われるものです」と言いますが、現状では、その必要性が医療者に浸透しているとは言えません。「がん相談支援センター」も充分にその機能を果たしているとは言えず、病院内の緩和ケアチームにおいては、1人の看護師が奮闘しているだけという病院が多く存在します。

続きを読む "緩和ケア「想定外のことばかり」" »

2017年12月 6日 (水)

統計的有意差だけに拘る医療はもう止めませんか


エビデンスがなければ医療ではない、人体実験だ、がん拠点病院での自費による免疫療法はけしからん、てな議論?が盛んです。
(「じひ」を変換したら「慈悲」と誤変換された。これ、誤変換と言うより患者のことを思っての「慈悲」かも。)

このブログでも『エビデンスだけでがん治療ができるのか?(4)』で紹介している米国統計学会の2016年3月声明です。

また、こうした“P値信仰”ともいうべき風潮に関して、米国統計学会は2016年3月に声明を発表しました。「Statisticians issue warning over misuse of P values」(Nature. 2016;531:151.)この中で、「科学的な結論、ならびにビジネスや政策上の判断は、P値が特定の閾値を超えるかどうかだけに基づいてなされてはならない」とはっきりと述べられています。

三好立医師が、昨日のブログ『p値 <0.05』で書いていて、この声明の日本語関連記事をリンクされています。

「p値や有意性に拘り過ぎるな、p < 0.05かどうかが全てを決める時代はもう終わらせよう」というアメリカ統計学会の声明

米国統計学会の声明:「p値や有意性にこだわり過ぎるな、p<0.05かどうかがすべてを決める時代はもう終わらせよう」

  1. p値は「そのデータがある特定の統計モデルとどれくらい適合しないか」を示し得る
  2. p値は「その仮説が真である確率」は与えないし「ランダムな偶然だけからそのデータが得られる確率」も与えない
  3. 科学的結論及びビジネス・政策上の意思決定は「p値がある特定の閾値を切ったかどうか」だけに拠るべきではない
  4. 適切な推論は完全な(データ及びモデルに関する)レポーティングと透明性を要するべきである
  5. 単一のp値もしくは統計的有意性はその結果の効果や重要性の大きさを測るものではない
  6. p値そのものだけではモデルや仮説に関するエビデンスの良い指標たり得ない

2や5、6は、多くのエビデンス至上主義者が勘違いしている部分ですね。

また、有名な医学誌『New England Journal of Medicine』(NEJM)も特別論文で、ずっと昔から同じことを注意喚起しているのです。

統計的有意差がない(P>0.05)ことは、効果がないことにはなりません。P値だけに関心が向いていると、いわゆるβエラー(第二種の過誤:本当は差があるのに、ないとする誤り。ぼんやりエラー)に陥ることもあります。

P値と統計的有意差があるなしだけを判断の基準とすることに対して、世界的権威のある医学誌が論文で注意を促しているのです。1978年New England Journal of Medicine (NEJM)に特別論文が掲載され、統計的な有意差がないために「Negative」とされた71編の臨床試験の結果のうち、点推定値と区間推定値で示すと、実は「Positive」な影響があったと思えるものが多数あることが分かったとし、βエラーを考慮することの重要性を強調しています。

エビデンスだけでは現場の医療は回らないし、救えるはずの命も救えません。ガイドラインに従うだけの医療なら、将来的にはAIに任せた方が上手くやるだろうから、医者の存在価値はなくなります。

もちろん、エビデンスなんかなくって良いというのではなく、少なくとも反証可能な手段での症例発表ぐらいはすべきです。

続きを読む "統計的有意差だけに拘る医療はもう止めませんか" »

2017年12月 4日 (月)

今日の一冊(86)『最新放射線治療でがんに勝つ』


はっきり言って、宇都宮セントラルクリニックの宣伝本です。このクリニックは、放射線による画像診断を得意としてきたのですが、この冬にはサイバーナイフとトモセラピーを備えた「高精度放射線治療センター」が開設されるそうです。

役にたつ情報が載っているのなら、宣伝本だからダメとは言えません。

サイバーナイフとトモセラピーの違いや、トモシンセシス、ABVS、PEM、DCハイブリッド療法、BAK療法、ハイパーサーミアの欠点を改良したオンコサーミア(腫瘍温熱療法)などをわかりやすく解説しています。

「手術はできません」と言われたら、あとは抗がん剤しかないのか?がんの三大療法は、手術、放射線、抗がん剤であるが、治癒を望むことができるのは手術と放射線だけです。手術ができなくても放射線がある。

ところが、欧米では放射線治療を選ぶ患者は6割もいるのに、日本では3割以下である。これは胃がんの手術から発展してきた日本のがん治療の遺産だろう。がんの拠点病院でも、手術のできない患者に放射線治療の可能性を説明する医師は少ないと聞きます。

重粒子線や陽子線が注目されるが、他の放射線治療も日進月歩です。なかでもガンマナイフから進化したサイバーナイフとトモセラピーの治療機器の進化が著しい。

サイバーナイフ:6センチ以下の初期のがんに有効。原発巣に再発した場合も有効。
トモセラピー:進行がん、再発・転移したがんにも有効

ともに膵臓がんにも保険適用(条件あり)です。

トモセラピーはアキュレイ社の登録商標で、IMRT(強度変調照射)の装置です。一本の放射線野の中で強い部分と弱い部分を混在させることができるので、正常細胞へのダメージがより少なくなります。トモセラピーは、ヘリカル回転照射モードなら、1回の治療で原発巣と転移巣への照射が可能です。膵癌が肝臓に多発したような場合にも1回の治療で照射することができます。

アブスコパル効果:放射線をがんに照射すると、がん細胞が死に、死んだがん細胞から免疫の刺激作用があるタンパクや、がん抗原などが放出される。その物質をマクロファージや樹状細胞が吸収し、腫瘍を特異的に攻撃する細胞障害性Tリンパ球を活性化させる。この細胞障害性Tリンパ球が遠隔のがん細胞も攻撃する。これがアブスコパル効果のメカニズムと考えられている。

DCハイブリッド療法:NKT細胞、NK細胞、ガンマ・デルタT細胞、キラーT細胞、ナイーブT細胞、ヘルパーT細胞、DC(樹状細胞)の七種を活性化する。治療費は300万円。

オンコサーミア(腫瘍温熱療法):放医研では再発食道がんの治療に用いている。13.56MHzの電磁波が、がん細胞の細胞膜だけに集中する特性を利用して、細胞膜の内外に温度差を生じさせて細胞膜を破壊する。がん細胞をアポトーシスに導く。

これって、細胞膜を破壊することでは光免疫療法に似ていますね。

オンコサーミアの詳しい説明はこちら

宇都宮セントラルクリニックでは、この他にライナス・ポーリング博士が発見したという「超高濃度ビタミンC点滴療法」も提供しています。がんには効果がないことが証明されているにもかかわらずです。

                 今日の一冊(82)『不老超寿』

しかし、免疫療法とモトセラピーを同じ医療機関で行えば「混合診療」になり、全ての治療が全額自費になるのではなかったか? この点、このクリニックではどのように処理しているのだろうか。

続きを読む "今日の一冊(86)『最新放射線治療でがんに勝つ』" »

2017年12月 3日 (日)

造影剤を激減できる画期的な新型CT


異なるエネルギーを含むエックス線を弁別して取りこむことで、CTが進化した。造影剤が少なくて良い。単一エネルギーでは難しかった影の薄い小さな腫瘍も検出できるようになった。フィリップス社のIQonスペクトラルCTである。

IQonスペクトラルCTとは

Iqonspectralct1

医療用CTに使われるエックス線のエネルギーは120keV(キロ電子ボルト)である。これは実効エネルギーであり、エックス線にはさまざまなエネルギーの波が含まれているが、その平均値に近い値である。(実効エネルギーは、物質の半価層を等しくする連続エックス線に等しい単色エックス線のエネルギーとして定められている)

エックス線は下図のように、さまざまなエネルギーの光子を含んでいる。

20171203001

レントゲン撮影もCTも、強度情報だけを使って、人体を透過してきたエックス線の量を濃淡画像に変換している。物質の密度が異なっていても、低いエネルギーの透過量と高いエネルギーからの透過量が等しければ、全体としては同じ濃度になり、見分けが付かないことになる。

造影剤として使われるヨードは、高いエネルギーでの透過量は水とほぼ等しいが、低いエネルギーでの透過量は大きく違っている。この二つの差を検出すれば、少ない造影剤でも鮮明な画像を得ることが可能になる。

この原理を応用したのが、スペクトラルCTである。

スペクトラルCT(Dual Energy Imaging)の原理

従来からも骨密度計などではデュアルエナジー法として利用されているが、これには二つのエネルギーの異なるエックス線源が必要であった。

上層に低エネルギーのX線を検出するイットリウム系、下層に高エネルギーのX線を検出するガドリニウム系の検出器を組み合わせることで、エネルギー弁別機能を持たせ、高・低エネルギーのX線を分離して電気信号に変換し、2つの信号により任意の単一エネルギーの画像を数学的に合成する2層検出器を開発した。

これにより、通常のCT画像に加えて、40keV~200keVでの画像(161種類)に加え、造影剤であるヨードの集積をみるヨード密度強調画像や、原子番号で色分けする実効原子番号画像、造影剤の影響を除去できる仮想単純画像など、追加169種類のスペクトラル画像を提供できるようになった。

04

2017年11月現在、世界で40台、日本では熊本中央病院などで8台が稼働している。

診断例(日経メディカルの画像にリンク)

Large_553744_pict2

90代女性、エコー検査で膵腫瘍疑いによりIQonスペクトラルCTを使った造影CT撮影を行った。ただし、患者のeGFRが35.2mL/min/1.73m2と腎機能が低下していたため、通常量の4分の1となる25mLの造影剤で撮影を行った。左側は一般的な撮影条件(120kVp)で表示した画像。右側はそれを40keVでの仮想単色画像に変換したもの。左側では不明瞭な膵頭部癌が、右側の動脈相画像では明瞭に抽出されている。(日経メディカルより)

DWIBS法の開発者である東海大学医療生体工学科の高原太郎氏も、「今、また画像診断が大きく進化している。新しい発見がたくさん出てくるだろう」と期待を語っている。

スペクトラルCT(Dual Energy Imaging)の利点

  • 患者の被ばく線量を少なくできる
  • 少ない造影剤で良いので副作用が抑えられる
  • 1回の撮影により、さまざまな情報が得られる
  • 撮影後に数値演算によって画像の差分やさまざまな加工ができる。検出困難な小さな腫瘍も検出可能となる
  • 低エネルギーの雑音成分を除去することによって鮮明な画像を得られる
  • 擬似カラー化されたCT 画像が得られるので、区別が付きやすい
  • 頭部CTでは、従来CTの骨に囲まれた部分のビームハードニングアーチファクト(擬似模様)がかなり軽減する
  • 物質の質量を弁別することができるので、腫瘍の良性・悪性の区別が付けられる可能性がある
  • 小さな腫瘍が検出できるので、がんの早期発見につながる

【補足】

フィリップスでは、同じ原理ながら光子を一つ一つ数えるフォトン・カウンティング方式の新しいPET-CT装置も開発している。

デジタルフォトンカウンティング技術を搭載した新型PET/CT装置

この種のフォトン・カウンティング方式の検出器を使って工業分野への応用も研究されており、この5年間、私はその最先端の開発研究に関わってきた。

こちらにその資料もあるので、興味があればご覧ください。

「enagy-protect.pdf」をダウンロード

20171203003_3

続きを読む "造影剤を激減できる画期的な新型CT" »

2017年11月30日 (木)

あの世へのベルトコンベアは、エビデンスで掃き清められている


日経の記事『がん標準治療 実施72% 国立がんセンター調査、前年上回る

なんだか、意味不明な調査だなぁ。

「体調や年齢などの関係で実施しなかった例を除くと、6つの標準治療の実施率は9割を超えた」と書かれているのだから、問題ないのではないか。

1割がガイドラインを遵守していないことを問題にしているとしたら、標準治療をはき違えているのは国立がんセンターの方ではないだろうか。ガイドラインは参考にすべきものであって、これが100%実施されているとしたら、返って逸脱だろう。

朝日新聞の記事『がん拠点5病院で研究外の免疫療法 厚労省調査

診療連携拠点病院5カ所で、有効性が認められていない「がん免疫療法」を臨床研究以外の枠組みで実施していたことが29日、厚生労働省の調査でわかった。治療費が全額患者負担となる治療が、標準治療の提供が求められている拠点病院で確認された。厚労省は今後、科学的根拠が確立していない免疫療法は原則、臨床研究で実施するよう求めていく方針だ。

これもそうだ。標準治療以外は認めない。臨床研究としてやれというお達し。

中村祐輔氏がブログで書いているが、

がん対策基本法の成立に尽力された議員の遺族が、「標準法をして、それが終われば、ベルトコンベアに乗せてポスピスに送る。議員はそうなることを最後まで心配していました。」と涙ぐんだ目で私に言われた

確かに「標準治療は最高の治療です」と考えている人たちにとっては、ベルトコンベアに乗せるのが仕事らしい。

患者の「私も治療に参加したい。自分のことだから」という想いは、「エビデンスのない治療は人体実験です」という、一見正当らしく見える意見によって無視される。

あの世へのベルトコンベアは、エビデンスで掃き清められている。

続きを読む "あの世へのベルトコンベアは、エビデンスで掃き清められている" »

より以前の記事一覧

サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想

膵臓がんランキング

  • あなたは独りではない。闘っているたくさんの仲間がいます。

膵臓がん お勧めサイト

アマゾン:商品検索

がんの本「わたしの一押し」

がんの本-リンク

  • がん患者が選んだがんの本

サイト内検索

ブログ村・ランキング